顧客要求に応える

経営相談師の機(ハタ)です。

私ごとですが、髪が伸びてきたので、先週から暇を見つけてカットに

行こうと思っていました。

普段は、都内にある行きつけの1000円カット店でやってもらってます。

1000円カットと言えども、侮ってはいけません。何しろ、知人からの

推薦で一度行ってから、その技術の高さに感心し、毎回そこでカット

してもらっていたのです。

しかし、そのお店は繁盛店で、いつ行っても満員。しかもさいたま市

から都内に出かけていくには、時間がかかります。カットするだけの

ために時間を費やすのは勿体無いので、今回は勇気を出して、地元の

カット店を探すことにしました。いくつかある中で、評判が良くて近い

1000円カットの店舗をネットで見つけ、早速お店に行ってみました。

 

店内は狭く8畳1間くらいです。質素な椅子が一つあり、それに座る

前に、いつものスタイル写真を取り出し「こんな風にカットして欲しい

のですが」と言いました。そうしたところ店主(他に従業員はいない)

が「そんなのは、普通の理髪店で言ってください」と写真を見ずもせず

言い放つではありませんか。私はムッとしました。「うちは1000円

カットの店だから、そんな要求に応える店ではない。文句があるなら

他の店に行け」との無言のオーラが出ております。

 

いつもの行きつけのお店は、複数の従業員(最近ではスタイリストと

呼ぶ)がいるのですが、誰が私を担当しても、一応そのスタイル写真を

見てくれます。しかし、その写真をチラリと見ただけでカットが始まり、

とても写真のスタイルに忠実にカットしているとは思えません。でも、

出来上がりが良いのです。写真と全く同じスタイルでは無いけども、

人によっては、そのスタイルよりもいい出来上りではないかと思うこと

もあります。結局、彼らは自分の技術に自信があるから、その写真を

見ただけで、頭の中に出来上がりのイメージが描けているのではないか

と思われます。つまり、顧客が提示した要求を一旦受け止め、そこに

自分の技術に基づく解釈を加えて、イメージを描く余裕が彼らにはある、

ということなのです。

 

話を現実に戻しましょう。「一応、こんな感じでお願いします」と

再度写真を見せながら、椅子に座りました。最初はバリカン、そして

ハサミと着々とカットされていきます。10分も経たないうちに、後ろ

に鏡を立てて「どうですか?」と聞きます。一応頷いて、これから

仕上げが始まるのかな、と思った矢先に髪の吸い上げが始まります。

そう、これでお終いだったのです。耳の辺りに寝癖がついて髪が

立ってたのですが、そんな事は一切気にせず、手を入れることなく

終了してしまいました。文句を言う間も与えず水色のカットシートも

首から外されて「お疲れ様でした」と店主。「どうも」と言って店を

出るしかない状況でした。いくら1000円カットの店でも、10分も

しないでリリースされたら、なんとなく消化不良です。帰宅して

よく鏡を見たら、やはり寝癖が気になります。仕方ないので、自分で

ハサミを使い、余分な部分を切りました。60年近く人生を生きて

きて、散髪をしてもらった後に、自分でハサミを入れて髪を修復

するなど、初めての経験です。もう2度とあの店に行くことは

ないでしょう。

 

さて、ここからが本題です。技術もさることながら、初めてのお客

さんに、本当にリピーターになってもらいたかったら、この店主は

どうすべきだったのでしょうか?

 

彼は、私が写真を見せた時にこう言うべきだったのです。

 

「わかりました。ただ完全に写真と同じくすることは難しいですよ。」

 

内容は当たり前の発言です。完全にできないことは判っています。

それでも、写真を見てそれに近い様な出来上がりにしてくれることを、

こちらは望んでいるのです。多少写真と異なっていても、出来上がりが

素晴らしいと、文句を言う理由が見当たりません。

 

「顧客要求に応える」という事は、100%顧客の言う通りにする事

ではありません。そもそもこの様なサービス業では、顧客要求を

満たすサービスの再現は不可能です。顧客もそれを自覚しながら、

自分の要求を「聞いてもらいたい」のです。ここが重要です。

顧客の出した要求を受け止める姿勢が必要なのです。拒絶しては

いけません。そしてその要求に対して、サービスの提供側がどれだけ

努力しているかというプロセスが大切なのです。

 

もう一つ。今回のケースでは、あまりに時間が短過ぎました。私は、

椅子に座っている時間は、最低でも10分は必要ではないかと考えます。

座って落ち着くまでの心理が得られる時間です。現実に、行きつけ

のお店では、一人当たりのカットに10分から15分かけているようです。

つまり、自分のためにスタイリストが一所懸命やってくれている、と

満足を感じるための時間が必要だということです。この店主は、

鏡を立てた後でも、小さな仕上げバサミを使って細かい毛先の調整

をするなど、一所懸命要求に応える「フリ」をすべきだったのです。

 

1000円カットは、忙しい人のために、カットのみという限定された

サービスを提供する業種ですが、早ければ良いというものでは

ありません。サービスの本質を見極めないと、「うちはこう言う

業種なんだ。不満があるなら他の店に行け」という驕りにつながり、

リピーターを失ってしまいます。気をつけましょう。