ソフトバンクと吉野家

 

経営相談師の機(ハタ)です。

 

昨日、そして先週の金曜日は、吉野家の牛丼を食べました。

 

 

 

そうです。ソフトバンクが携帯電話サービス開始10周年を記念して

打ち出した「スーパーフライデー」というサービスキャンペーンです。

 

かいつまんで言うと、ソフトバンクのスマホユーザーに、毎週メール

で無料クーポンが届きます。10月は吉野家の牛丼並盛り、11月は

サーティワンのアイスクリーム、12月はミスタードーナツの商品が

無料になる予定だそうです。

 

このキャンペーンの凄いところは、何点かあります。まず「無料」という

ところ。割引サービスは、プロモーションの手法として、当たり前の

ように行われています。しかし、無料というのはかなり勇気のいること

です。消費者にとっては、たとえ半額であっても、自己支出が生じる

ものに対しては、抵抗感というか心理的な障壁が存在するものなのです。

それを無料にしたことで、サービスを享受しないと「損する」という

不思議な焦燥感が逆に芽生えてきます。アメニティ・グッズなど無料の

景品や試供品などはありますが、正規の商品を無料にすることで、

大規模なキャンペーン広告を打つことができます。

 

しかし、このキャンペーンの事前広告を私は全く見ませんでした。ソフト

バンクユーザの携帯メールに、そのキャンペーンの告知がなされていたの

です。なぜか?マスメディアを使う必要が無かったからです。サービスの

対象は、ソフトバンクのユーザだから、キャンペーンの告知も自社が

把握している登録ユーザへメールを送るだけ。ほとんど費用がかかりません。

そしてこのキャンペーンは、話題性になること間違いありません。事実、

吉野家の店頭に行列ができていることがネットで話題になりました。

その記事を見て、携帯をソフトバンクに乗り換える人が増えることも

間違いありません。これは初めからネット(SNS)で話題になること

を意図した事後プロモーションと言っても過言ではありません。SNSを

逆手にとった実に賢いプロモーションをソフトバンクは試みたのです。

 

次に、自社の商品ではなく、他社の商品を対象にしたところがミソです。

自社の商品を無料にするのは、そんなに難しいことではありません。

原価は増えますが、その分売上も膨らみ、直接的な顧客拡大につながり

ます。他社の商品を無料にしたら、他社の売上や顧客の拡大につながって

も、自社のメリットは無いのではないか?当然に、無料にした牛丼の

支払いは、ソフトバンクに請求が行きます。ソフトバンクは大損です。

来店した人が口々にそう言ってます。果たしてそうでしょうか?

 

このキャンペーンは、吉野家にとっても顧客拡大につながるのは間違い

ありませんから、両者で原価を折半に近いものにしているのではないで

しょうか。牛丼並盛りの販売単価は380円です。仮に原価を100円とした

場合、ソフトバンクの支出は、一人当たり50円です。4週分クーポンを

発行しても、その内実際に吉野家に行くのは、多くて5割と考えると、

この10月にソフトバンクが支出するのは、一人当たり100円となります。

ユーザにハガキを月に2回送るのとほぼ同額になります。しかし両者の

効果は全く違います。ハガキを送っても、殆ど読まれず反応率が悪い

のに対して、このキャンペーンは絶対に反応すること間違いなしです。

費用対効果を考えると、そんなに悪いものではないことが判ります。

あえて他社の商品を対象にしたのは、費用の折半と話題性を考慮した

実に緻密な計算があることは間違いありません。ソフトバンクも吉野家

も、そんないい加減な企業ではありませんから、ギャンブルはしません。

 

さらに、この無料キャンペーンは、一過性のものではなく、継続性が

あるということです。10月、11月、12月とそれぞれに対象商品を変えて

継続していきます。この間に、携帯会社を変えようとするユーザが、

このサービスを受けるためにソフトバンクに乗り換えるのは間違い無い

し、ソフトバンクユーザも、他社に乗り換えるのを中止するでしょう。

一過性のサービスではなく、ある程度の期間を設けて、その間の

ユーザの心理や行動を深く分析しているものとうかがえます。

 

最後に対象商品の選定です。11月、12月のアイスクリームやドーナツ

は家族持ち(世帯持ち)を対象にしており、幅広い年齢層にソフト

バンクの携帯を使わせるためにと、うかがえます。しかし、10月の

吉野家の牛丼は微妙です。普段は独身の男がチラホラの吉野家の店内

ですが、店の前では、持ち帰り客の長い列ができてました。明らかに、

無料になる自分以外の家族の分まで買っていく顧客層です。女性が

意外と多かったので、それがわかりました。以前からソフトバンクは

吉野家とコラボして割引クーポンなどを発行していたので、最初に

吉野家の牛丼を持ってきたのは頷けます。しかし店内の客はそれほど

増えず、逆に今まで吉野家を利用したことのない持ち帰り客が増えた

事は、どう評価するのでしょうか?このキャンペーン期間だけの

一過性の顧客と捉えるのでしょうか。

 

実はこれに関しても、面白いネット記事がありました。ソフトバンク

のキャンペーンとは関わりのない、そのお店独自の割引キャンペーン

(150円割引)を火曜日に実施したところ、来店客が増えたとのことです。

キャンペーンの効果で、吉野家の店の認知度がアップしたのは明らか

です。なぜなら、私も先週、今週と、よく行く出先で一度も行った

ことのない吉野家の店舗を探し当てて、入っているのです。

もし外食するなら、知らないお店に入るより、一度入ったお店に

行くのは、人間の心理ですね。

 

実にいろんな事を考えさせられる、面白いキャンペーンです。